引っ越しの当日は、荷物の搬入や手続きで慌ただしく、部屋の状態をじっくり見る余裕がないまま暮らし始める人が多いです。ところが、退去のときに「この傷は入居者が付けたもの」と言われても、入居した時点の状態を示すものがなければ、反論するのは難しくなります。この記事では、賃貸の入居時チェックで何を見て、どう記録し、管理会社へどう伝えるかを順に説明します。荷物を入れる前の30分ほどで済む作業ですが、数年後の退去費用に関わる大事な準備です。

前提:入居時の記録が退去費用を左右する理由

退去時の費用の考え方は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で整理されています。ガイドラインでは、普通に暮らしていて生じる傷みや、年数がたって自然に古くなった分(経年劣化・通常損耗)は貸主の負担とし、入居者の不注意や手入れ不足で生じた傷や汚れは入居者の負担とする考え方が示されています。問題になるのは、その傷が「いつ、誰が付けたか」です。

入居時からあった傷なのに、記録がないために入居者の負担として請求されるケースがあります。ガイドラインにも、入居時と退去時に物件の状態を貸主と借主が一緒に確認し、記録を残しておくことがトラブル防止に役立つと書かれており、確認用のリストの例も載っています。

  • 入居時からあった傷や汚れは、本来は入居者の負担にならない
  • ただし、入居時からあったことを示す記録がないと、話し合いで不利になりやすい
  • 記録は、日付の分かる写真と、管理会社へ提出したチェックシートの控えが基本

賃貸の退去費用はどこまで払う?原状回復の考え方

確認する場所の一覧

部屋の状態は、荷物を運び込む前に確認するのが理想です。家具や段ボールを置いてしまうと、床や壁の下の方が見えなくなります。玄関から奥へ、上から下へと順番を決めて見ていくと、見落としが減ります。

  • 床:フローリングのへこみ・引っかき傷・変色、クッションフロアのめくれ
  • 壁・天井:クロスの破れ・はがれ・汚れ、画びょうやねじの穴、雨じみ
  • 建具:ドアや引き戸の傷、閉まり具合、ふすまや網戸の破れ
  • 窓:ガラスのひび、サッシの動き、鍵(クレセント錠)のかかり具合
  • 水まわり:キッチン・浴室・洗面台・トイレの傷やひび、水漏れ、排水の流れ
  • 設備:エアコン、給湯器、換気扇、インターホン、照明が動くか
  • 収納:クローゼットの扉、棚、内部のカビやにおい

特に見落としやすいのは、床の細かい傷と、水まわりのパッキンや排水口まわりです。床は、窓からの光が斜めに当たる位置にしゃがむと、へこみや傷が見えやすくなります。水まわりは、実際に水を流して、たまらずに流れるか、下の収納が濡れていないかまで確かめてください。

写真の撮り方:あとで証拠として使える記録にする

写真は、撮った枚数よりも「あとで見て、どこの何か分かるか」が大切です。傷のアップだけを撮ると、部屋のどこなのかが分からなくなります。少し引いた写真と、近くに寄った写真を組で撮っておきましょう。

  • まず部屋全体を、四隅から見渡すように撮る
  • 傷や汚れは、場所が分かる引きの写真と、大きさが分かるアップの写真を組で撮る
  • 大きさが分かるよう、定規やペン、硬貨などを横に置く
  • 撮影日が残るスマートフォンで撮り、写真はクラウドにも保存しておく
  • 動画で部屋を一周しながら撮っておくと、撮り忘れの補いになる

スマートフォンの写真には、撮影日時の情報が自動で記録されます。ただ、機種変更のときに消えてしまうこともあるため、数年先の退去まで残る場所に保存しておくことが大切です。管理会社へメールで写真を送っておけば、送信日が残るので、記録としてより確かなものになります。

チェックシートの出し方と期限

多くの管理会社では、入居時に「入居時チェックシート」や「室内状況確認書」といった用紙を渡しています。部屋の場所ごとに傷や汚れの有無を書き込み、期限までに返送する形式が一般的です。期限は入居から1〜2週間程度とされることが多いですが、管理会社によって違うため、受け取ったときに確認してください。

  • 用紙を受け取ったら、提出期限と提出方法(郵送・メール・アプリ)を確認する
  • 傷の場所は、間取り図に印を付けるなどして具体的に書く
  • 「小さな傷」ではなく「洋室の窓側の床に長さ3cmほどの引っかき傷」のように書く
  • 提出する前に、記入済みの用紙を写真に撮るかコピーを取って控えを残す
  • 用紙が渡されなかったときは、写真をメールで送り、記録として残しておく

書き込むときは、迷ったものも含めて書いておくのが基本です。「この程度なら言わなくてもいいだろう」と省いたものが、退去時に問題になることがあります。気になった点はすべて書き、写真と対応させておきましょう。

設備の不具合を見つけたら、すぐ連絡する

入居時チェックでは、傷だけでなく、設備が正しく動くかも確かめます。エアコンが冷えない、給湯器のお湯が出にくい、換気扇から異音がするといった不具合は、入居してすぐに伝えれば、もともとの不具合として扱われやすくなります。民法では、貸主には部屋を使える状態に保つための修繕の義務があり、入居者には修繕が必要なことを貸主に知らせる義務があると定められています(民法606条・615条)。

不具合を知りながら長く放っておくと、被害が広がった分の責任を問われることもあるため、見つけた時点で管理会社に連絡し、やり取りの記録を残してください。

  • エアコン:冷房と暖房の両方を数分動かし、風が出るか、水漏れがないかを見る
  • 給湯器:キッチンと浴室でお湯が出るまでの時間、温度が安定するかを見る
  • 電気:すべての照明とコンセントが使えるか、ブレーカーの容量を確かめる
  • 鍵:玄関の鍵がスムーズに回るか、鍵の本数が契約書と合っているかを見る

入居前の内見でも見ておきたいこと

入居時チェックは契約後の作業ですが、契約前の内見の段階でも、大きな傷や設備の不具合に気づけることがあります。気になった点は、契約前に「入居までに直してもらえるか」「直さない場合は入居時の記録に残してもらえるか」を確認しておくと安心です。

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よくある質問

入居時チェックシートを出し忘れたらどうなりますか

出し忘れただけで、すぐに不利になるとは限りません。ただ、入居時の状態を示す記録が少なくなるため、気づいた時点で管理会社に連絡し、遅れてでも写真と一緒に提出しておきましょう。

入居時の写真は何枚くらい撮ればいいですか

決まった枚数はありません。部屋全体の写真と、気になった傷や汚れごとの写真を撮れば十分です。ワンルームでも数十枚になることは珍しくありません。

入居後しばらくしてから見つけた傷はどうすればいいですか

家具の裏など、入居時に見えなかった場所の傷は、見つけた時点で写真を撮り、管理会社に知らせておきましょう。自分で付けた傷でないことを、できるだけ早く伝えるのが大切です。

入居時チェックは管理会社と一緒に行うものですか

入居者だけで行い、用紙を返送する形が多いです。立ち会いを求められる場合もあるため、鍵の受け取りのときに確認してください。

まとめ

  • 入居時からあった傷や汚れは、記録があれば入居者の負担になりにくい
  • 荷物を入れる前に、床・壁・建具・水まわり・設備を順番に確認する
  • 写真は、引きとアップを組で撮り、数年後まで残る場所に保存する
  • チェックシートは期限内に出し、控えを残す
  • 設備の不具合は、見つけたらすぐ管理会社に連絡する

※本記事は一般的な情報をまとめたものです。入居時の確認方法や提出期限は、管理会社や契約内容によって異なります。最終的な内容は、契約書と管理会社の案内でご確認ください。